世間的には高層の構造計算より低層、しかも木造の構造設計は簡単だと勘違いしている方がいるけど、実情は違う。高層には高層の、低層には低層の難しさがある。私の事務所が高層から撤退したのは耐震偽装事件の2年前。理由は、高層はマンションのように各階が揃っていることから、構造計算ソフトとの親和性が高く、価格競争が激しくなっていたからである。また私自身が高層建築物に関して、かなり不信感をもっており(構造的にではなく、人間的に)、住みにくいし、壊しにくいし、次の世代に大幅な負債として残してしまう可能性があると感じて、設計には関わりたくなかったからです。
 低層は、意匠設計を行う方も施主も自由が利くと勝手に勘違いしている部分があり、複雑な構造計画が多いです。その分苦労もしますが、面白くもあります。しかし完全な無理なものも多く、憂鬱です。説明してわかってくれればいいのですが、かなり強引に自分の考えを押しつけて来られると困ります。意匠設計の方も構造計算はともかく、構造設計・構造計画には興味を持ち勉強して欲しいです。お客に一方的に構造屋の腕が悪いと喧伝されたこともありました。なんでそんなことも出来ないのだ、と怒鳴られることもしばしば。
 4号建物は構造計算不要だから、何でも許されるという時代はもう昔です。今は政治じゃないけど、説明責任は大事です。設計を行うからには安全に配慮する義務があります。配慮だけでなく正しい対策が重要です。構造だけではありません。電気もガスも水道も防水、断熱だってそうです。
 木造の構造計算を学ぼうと思う方の多くが、スキップフロアや変形した建物も構造計算すれば簡単にできると勘違いするようです。ソフトを使えば簡単にできると思っている人も多いです。構造屋さんが自分のいうことを聞かないから、自分でやってやれ、という方もいます。それはそれでいいのですが、それを実現する実力をつけるのはかなり難しいし、やはり「無理なものは無理」ということも十分あります。名医だって全員の命を救えるわけではないのですから、建物も同じですね。ただ名医は他の医者に比べて・・・、つまり建築もそうなのかもしれません。

投稿者 しろなまず

建築設計やっています。スマホやソフトウェアが好きです。