耐震診断業者への警笛

 耐震診断に参入する業者が増えています。当然需要があるから儲かる!との考え方があるようだが、実際はそうではない(はず)。私の事務所でも当然報酬は頂いていますが、はっきりいって赤字です。私はボランティアに近いと感じています。それくらいの覚悟がないと診断、補強設計が出来ないと感じています。
 なぜなら、耐震診断、補強設計は勉強・訓練が非常に必要です。完全なる解が存在しない業務なのでマニュアルに従っているだけでは業務がこなせません。さまざまな事例を研究し、自分なりの仮説をたて、実証する作業も必要です。信頼して任せてくださるお客様を裏切るわけにもいきません。出来る限りの努力をします。その努力が工事価格を安価にさせ、こちらの利益が減ってしまうという矛盾が起こってしまうこともあります。また、心ないお客様は「診断でお金を取られるなんてばかげている」とか「案ならタダでしょ」とか「補強設計書だけ持ってきて。こっちで工事するから」などといわれることもあります。心ではショックを受けても表面に出さないようにしています。まだまだこちらが至らないのだと反省します。
 世間で耐震診断、補強で儲けている方も多いと思います。しかしどこまで努力していますか?間取りを調べソフトに入力して判断する、そんな業務しかしていない人もいませんか?専門家として恥ずべきことはありませんか?私のところには、毎日のように診断での疑問点を電話やメールで聞きに来る人がいます。マニュアルを読めばわかるレベルの内容や、少しは考えろよ!という内容が多いです。人に聞けば簡単に解決する、と考えている人も多いです。しかし専門的技術は人に聞いただけで身に付くものではありません。マニュアルにない内容も他の本を勉強することによってわかることもあります。耐震診断マニュアルには構造についての解説は少ないので、構造についての基本的な情報は、他の本で補う必要があります。金物についての知識も多少の構造計算の知識やメーカーのカタログを読みこなす能力も必要です。基礎強度はコンクリートの知識も必要です。そういった基礎的な勉強にも結構時間がかかります。また日々新しい技術が開発されている昨今、新しい情報を入手する必要があります。とても安易に参入できる業界ではありません。
 私のような固い考え方の人間はこの世に必要ないのでしょうか?なんか日本の国が安易な方向に向かっているようで危うさを感じます。
 サッカーの中田選手が引退しました。私には彼ほどの能力も信念もありませんし、努力も足りません。彼の言っていることをは私にとっては受け入れがたい部分も多いです。しかし少しでも彼の言葉に共感する心があるのなら耐震診断も業務と考えず専門家としての誇り、努力、信念を持ってやって欲しいものです。これはどの分野の専門にもいえることです。専門家と固いことを言わずに、日常業務もそうです。自分のやっていることに責任を持つ、これが大人なのではないでしょうか?

作成者: しろなまず

建築設計やっています。スマホやソフトウェアが好きです。