耐震診断と補強の効能

 耐震診断に否定的な方の意見を良く聞きます。我々も商売ですので、公平な目では見れない立場なのですが、正直どんな建物であっても耐震診断は必要です。
 耐震診断というよりも定期診断という言い方のほうが正しいでしょうか?どんな頑丈な家であっても自然界の摂理には逆らうことは出来ず、古くなると老朽化が始まります。「~ホームだから大丈夫!」という声も空しく聞こえます。もちろん住宅メーカーは「○年点検」などという制度を設けています。完全にメンテナンスフリーなんてことはないのです。
 構造体が理論上大丈夫でも、たとえばトイレの配管がもれて、構造体に水がかかり急速に腐敗することもあります。また最近の高気密高断熱も気密性が破れれば元も子もないのです。破れる原因は、経年変化であったり、交通振動だったり、地震だったり、台風だったり様々です。絶対という言葉はありません。怖いのは地震だけではないのです。
 最近の耐震ブームはある意味喜ばしいのですが、金物を取り付けるだけの補強や営業行為に等しい診断が横行しているのは悲しいことです。最近も土台を確認せずに巨大な外付け金物を取り付けたため、柱が傷んでしまった例を見ました。内部を点検せずに施工の効率性だけを優先した結果です。補強設計を行うものは、その現場の状況を見定め、その現場にあった施工方法を考案すべきです。金物を売るための補強では意味をなさない場合も多いのです。
 金物はやっかいです。研究所などの実験では大丈夫でも実際の建物では挙動が異なることがあります。何よりも木と金物は素材の違いがあります。金物が結露の原因となり木が腐ることもあります。また金物の防水がしっかりしていないと、金物の取り付け穴から雨水が入ることもあります。ビスやボルトで取り付けると木の強度を弱めてしまうこともあります。
 私は補強金物を必要な箇所に必要な量を取り付けるようにしています。また金物以外で引抜を抑えられるように設計で工夫をしていますし、合板の取り付け部に工夫をしています。総合力で耐震性を高める努力しなければなりません。
 さて、そうして行った耐震補強が果たして大地震に効果があるのか?最近の実大実験では、補強前と補強後の物件を同時に揺らすなどというとんでもない実験を行っているところがあります。ビデオで見ると明らかにゆれが違います。補強していないほうの倒れ方を見るとショックを受けます。補強しているほうはゆれも少ないしなかなか倒れません。もちろん自宅の補強の効果は地震が来て見ないとわからないので、実感が薄いと思いますが・・・。
 耐震改修促進法が改正され優遇税制が使えるようになりました。診断制度も充実し、診断・補強のノウハウを持った業者も増えてきて、補強を行う環境は整ってきています。これまでためらっていた方も診断と補強を考えてみてはいかがでしょうか?

作成者: しろなまず

建築設計やっています。スマホやソフトウェアが好きです。