精密耐震診断の不安

 2004年夏に新しい耐震診断が公表されました。私はすぐにマニュアルを見ながら一般診断用のソフト(エクセル)を作成し診断を開始しました。2005年の春には精密診断の手法を研究し秋から実戦導入しました。ということでまだ精密診断を正式に開始してからまだ半年ほどしか経っていません。でも府中部会が精密診断を導入したおかげでデータが結構揃ってきて、そろそろ実務上の問題点も上がってきました。一般診断や旧診断での再計算作業も同時並行で行っており、その成果は府中部会の耐震診断にフィードバックする予定です。個人で行っているとどうしてもわからないことも、府中部会のような専門家で組織する部会だと様々な議論がでていろいろなデータを集め、検討することができます。
 しかし、その中で精密耐震診断の欠点もわかってきました。その欠点を知った上で診断を行うことが出来れば問題ないのです。基本的に現地調査の比重が高い耐震診断という業務は経験と勘が必要ですが、それが間違った方向に行くと見当違いな結果がでてしまいかねません。
 旧診断からの移行で問題点は、旧診断と新診断で評点自体はかわりません。しかし持つ意味が微妙に違うのです。旧診断は建物全体を評点として表現しており、新診断は上部構造(木造部分で基礎を除く)のみを評点としているのです。このことから同じ1.0の評点でも基礎が悪い場合と、良い場合ではまったく違います。このことが非常にわかりにくくしています。評点主義できた方にとっては今まで基礎を直せば評点が一気に上がるのですが、今度はほとんど反映されません。もちろんマニュアルを読めばこのあたりの事情を理解できるのですが、あまり読まない方にとっては基礎を無視して補強しようとしてしまいかねません。また劣化度の評価は簡単なのですが、すべてを調査するわけにもいかず、調査ポイントの絞り込みの仕方で評点が変わってくる可能性もあります。
 また耐震診断ソフトの結果を鵜呑みにする傾向がこの業界全体にあることが残念です。ソフトはあくまで診断の1ツールであることを忘れてはなりません。
 このような状況で耐震診断を商売の道具として行っている業者が増えていることが非常に不安です。特に精密診断は素人の手に負える物ではないと感じています。府中部会では何回も実際の建物を使って講習したり、想定建物を実際に入力して貰って添削を繰り返すといった研修を地道に行っています。その上診断結果を事務局でチェックを行ってから提出させるといった作業を行っています。それでも「難しい」と感じます。耐震診断が普及するのは歓迎ですが、本当に良い方向にいくかどうかが不安です。

作成者: しろなまず

建築設計やっています。スマホやソフトウェアが好きです。