木造住宅でも構造計算をお勧めしているのに、木造の構造計算ってかなり不思議な部分があります。
 在来木造の構造計算は建築基準法他で定められてはいるものの計算の仕方に関して詳細は示されてはいません。そこで事実上のテキストとなっているのが「木造軸組工法の許容応力度設計(日本住宅・木材技術センター)」という本である。しかし構造技術者、それも木造構造計算を手がけている人の中で、この本を読んだことがない方が結構いらっしゃいます(私は必要な部分だけ読んでいる)。というのは、この本が発行されるまでは「3階建て木造住宅の構造設計と防火設計の手引き」(通称「青本」といわれています)という本が事実上のテキストだったからです。それでメジャーな構造計算ソフトもこの本を主に開発されています。そして「青本」が絶版になっている現在においても役所に提出する書類は、この絶版になったほうの本の計算方式で提出しているのです。実はこの「青本」発行年度は昭和63年。結構古いです。まだ阪神淡路の大震災が発生する前のことです。もちろん改訂も行われているし、法改正も行われているので現実的には問題は少なと思われています。しかし「青本」は筋かいの向きを考慮しないでも計算できる、床の剛性は「剛」の一言で片付けられている、等欠点もあります。もちろん「木造軸組工法の許容応力度設計(日本住宅・木材技術センター)」では、そのあたりも考慮されています。でもなかなか普及しません。私も通常は「青本」形式で計算してしまいます。
 その理由は「青本」のほうが、計算がシンプルで構造計算書も少なく(設計ミスが少なくなる)、また柔軟性がある(現場の施工性を考慮しやすい)からです。「青本」否定派がいうほど欠点も無く、各震災でも被害が少なかったですから。
 こんなことを考え出したのは、私が担当した物件のハウスビルダーの設計担当者からの問い合わせで「もちろん最新の方法で構造計算されましたよね?」と問われたからである。ちなみに役所の担当者は「考え方の違いはあれど、どちらの方法で計算しても構わない」と指導を受けています。今まで「青本は駄目」って言われたこともありません。で、「青本」は最新ではありませんから答えに窮したわけです。
 木造と鉄骨や鉄筋コンクリートを組み合わせたいわゆる「混構造」はもっとひどく、事実上のテキストは、とっくの昔に絶版。ようは新しく混構造の計算をしたい人に事実上のテキストすら手に入らない(コピーサービスが開始されて最悪の状態は回避されたようだが)といったとんでもない状況が続きました(今年2月にようやく新しいテキストが発行されることになりました)。
 こんな状態だから構造技術者、特に木造に関して育成されるわけもなく構造設計者、特に木造は寒い環境にあります。しかも計算なんてコンピュータがほとんどやってくれる時代ですから。
 ですからもう少し真面目に取り組もうと思っている今日この頃です。なんといっても木造が一番多いのですから。

投稿者 しろなまず

建築設計やっています。スマホやソフトウェアが好きです。